第4帖 夕顔(ゆうがお)源氏物語
過ぎにしも 今日別るるも 二みちに 行く方《かた》知らぬ 秋の暮《くれ》かな 〜亡くなった人(夕顔)も今日別れて行く人(空蝉)も それぞれの道に どこへ行くのか知れない秋の暮れだなあ 【第4帖 夕顔 今日《きょう》から冬の季にはいる日は、いかにもそれ…
蝉の羽もたち 変へてける 夏ごろも かへすを見ても 音《ね》は泣かれけり (源氏から返された夏の小袿の返歌) by 空蝉の君 〜秋となりさっぱりと衣を替えおえた蝉の羽のように薄い夏衣を 今さらお返しになるのを見ても 声を立てて泣かれるばかりです。 【第…
逢《あ》ふまでの 形見ばかりと 見しほどに ひたすら袖《そで》の 朽ちにけるかな 〜再び逢う時までの形見の品というくらいに思い持っていましたが、 そうしている内にひたすら涙で小袖の袖が濡れて、 朽ちてしまいましたよ。 【第4帖 夕顔】 伊予介《いよの…
泣く泣くも 今日《けふ》はわが結《ゆ》ふ 下紐《したひも》を いづれの世にか 解けて見るべき 亡き夕顔の衣装の袴の腰に源氏が書いた歌 〜泣く泣く 今日は私が一人で結ぶ袴の下紐、 いつの世にか貴女と再び会い その結んだ下紐を解いて(心も打ち解けて)逢…
ほのめかす 風につけても 下荻《したをぎ》の 半《なかば》は 霜にむすぼほれつ 軒端荻に by 源氏の君 〜それとなく分かるような風(手紙)をみるにつけても ほのめかしてくださることを嬉しいと思いつつも、 霜が降りた荻の下葉のように私の心は半分しおれ…
ほのかにも 軒ばの荻《をぎ》を むすばずば 露のかごとを 何にかけまし 軒端荻に by 源氏の君 〜軒端の荻を結ぶように、あなたと関係を持ったのでなかったら、 露のようなちょっとした恨み言ですら、 どうしていうことができたでしょうか。 【第4帖 夕顔】 …
うつせみの 世はうきものと 知りにしを また言の葉に かかる命よ 空蝉の君に by 源氏の君 〜あの空蝉のようにはかない貴女との関係は、 もう望みのないものとわかっていましたのに、 また貴女のお言葉に すがらずにはおれない この命です。 【第4帖 夕顔】 …
問はぬをも などかと問はで 程ふるに いかばかりかは 思ひ乱るる 源氏の君へ by 空蝉の君 〜お見舞いできませんことを なぜかとお尋ね下さらずに 月日が過ぎるのは、私もどれほど思い乱れていることでしょう。 夫 伊予介の任地へ伴われる日が近づいてきた空…
八月九月 正長夜《まさにながきよ》、 千声万声《せんせいばんせい》 無止時《やむときなし》 by白居易 〜『白氏文集』「聞夜砧」より 【第4帖 夕顔】 空は曇って冷ややかな風が通っていた。 寂しそうに見えた源氏は、 『見し人の 煙を雲と ながむれば 夕《…
見し人の 煙を雲と ながむれば 夕《ゆふべ》の空も むつまじきかな by 源氏の君 〜かつて愛し連れ添ったあの人の火葬の煙をあの雲とおもって眺めると この夕方の空も親しみ深く感じられることだ。 【第4帖 夕顔】 「弱々しい女が私はいちばん好きだ。 自分が…
光ありと 見し夕顔の うは露は 黄昏時《たそがれどき》の そら目なりけり 光る君へ by 夕顔の君 〜光輝いているように見えた夕顔の上の露は、 黄昏時(たそがれどき)の見間違いでした。 ぜひ、全文もご覧ください 光り輝くほど美しいと思えた夕顔の上露 (…
夕露に ひもとく花は 玉鉾《たまぼこ》の たよりに見えし 縁《えに》こそありけれ』 夕顔の君へ by 源氏 〜夕露という愛情でこうしてあなたは花ひらき 私がが覆いの紐を解く(覆面を外し顔をみせる)のは、 たまたま通りかかって お会いしたのが縁となったの…
山の端《は》の 心も知らず 行く月は 上《うは》の空にて 影や消えなん 夕顔の君へ by 光る君 〜山の端の気持ちも知らずに、その山の端めざして傾きゆく月は、 空の中ほどで光が絶えてしまうのではないでしょうか。 第4帖 夕顔 呼び出した院の預かり役の出…
いにしへも かくやは人の 惑ひけん わがまだしらぬ しののめの道 夕顔の君へ by 光る君 〜昔もこのように 人は恋にとまどったのだろうか。 私は まだ知らなかった夜明けの道 第4帖 夕顔 呼び出した院の預かり役の出て来るまで留めてある車から、 忍ぶ草の生…
前《さき》の世の 契り知らるる 身のうさに 行く末かけて 頼みがたさよ 光る君へ by 夕顔の君 〜前世からの因縁が知られる今のこの身の辛さですから、 来世をあてにはとてもできません。 第4帖 夕顔 源氏は身にしむように思って、朝露と同じように短い命を持…
優婆塞《うばそく》が 行なふ道を しるべにて 来ん世も 深き契りたがふな 〜優婆塞《うばそく》がお勤めしている御仏の道に導かれて、 来世でも私たち二人の深い契りを違えないようにしてください 優婆塞《うばそく》とは、在家の男の仏教信者のこと。 第4帖…
朝霧の 晴れ間も待たぬ けしきにて 花に心を とめぬとぞ見る 光る君へ by 六条御息所の女房 中将の君 〜朝霧の晴れる間さえ待たずにお帰りになられるご様子なので、 朝顔の花になどお心を止めていないのだとばかり思っていました。 さらりと源氏の誘いをかわ…
咲く花に 移るてふ名は つつめども 折らで過ぎうき 今朝の朝顔 六条御息所の女房 中将の君へ by 光る君 〜咲く花のように美しい貴女に心を移したという風評は はばかられますが、 やはり手折らずには 素通りしがたい 朝顔の花(中将の君)です。 第4帖 夕顔 …
寄りてこそ それかとも 見め黄昏《たそが》れに ほのぼの見つる 花の夕顔 光る君へ by 夕顔の君 〜近寄ってこそ誰かと判別できるでしょう。 黄昏時にぼんやりと見たのが夕顔の花であるかどうか‥ (私が光源氏かどうか、近寄ってみれば確認できますよ) 第4帖…
心あてに それかとぞ見る 白露の 光添へたる 夕顔の花 光る君へ by 夕顔の君 〜当て推量で源氏の君かと拝見します。 白露が光を添えている夕顔の花のような 美しい御顔のあの方を‥ 夕顔ゆうがお 源氏が引き受けて、 もっと祈祷《きとう》を頼むことなどを命…