なべて世の 哀ればかりを 問ふからに
誓ひしことを 神やいさめん by 朝顔の姫君
〜一通りのお見舞いの挨拶をするだけでも
誓ったことに背くと(賀茂の)神がお戒めになるでしょう。
なべて世の 哀ればかりを 問ふからに
誓ひしことを 神やいさめん
と斎院のお歌が伝えられる。
「そんなことをおとがめになるのですか。
その時代の罪は皆 科戸《しなど》の風に追
ってもらったはずです」
源氏の愛嬌《あいきょう》はこぼれるようであった。
「この御禊《みそぎ》を神は
(恋せじとみたらし川にせし
御禊《みそぎ》神は受けずもなりにけるかな)
お受けになりませんそうですね」
宣旨は軽く戯談《じょうだん》にしては言っているが、
心の中では非常に気の毒だと源氏に同情していた。
羞恥《しゅうち》深い女王は
次第に奥へ身を引いておしまいになって、
もう宣旨にも言葉をお与えにならない。
「あまりに哀れに自分が見えすぎますから」
と深い歎息《たんそく》をしながら源氏は立ち上がった。
「年が行ってしまうと恥ずかしい目にあうものです。
こんな恋の憔悴《しょうすい》者に
せめて話を聞いてやろうという寛大な気持ち
をお見せになりましたか。そうじゃない」
こんな言葉を女房に残して源氏の帰ったあとで、
女房らはどこの女房も言うように源氏をたたえた。
空の色も身にしむ夜で、木の葉の鳴る音にも昔が思われて、
女房らは古いころからの源氏との交渉のあった
ある場面場面のおもしろかったこと、
身に沁《し》んだことも心に浮かんでくると言って
斎院にお話し申していた。
💐#夕風と君 written by #のる
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