第7帖 紅葉賀(もみじのが)源氏物語
つきもせぬ 心の闇《やみ》に くるるかな 雲井に人を 見るにつけても 藤壺の宮が宝玉のように輝くお后となられた。 手の届かない方になっておしまいになったと嘆く源氏 〜尽きない心の迷い 恋の思いに 目の前が真っ暗になる。 雲の上の存在の 高い地位につか…
君にかく 引き取られぬる 帯なれば かくて絶えぬる 中とかこたん 〜あなたにこのように取られてしまった帯ですから こんな具合に仲も切れてしまったものとしましょうよ 逃れることはできませんよ。 ✳︎ 女の所で解いた帯に他人の手が触れると その恋は解消し…
中絶えば かごとや負ふと 危ふさに 縹《はなだ》の帯は とりてだに見ず 〜もし、あなたと源典侍の仲が絶えたら、 私に帯を取られたせいだと恨み言を言われたりしないかと心配なので この縹色(はなだいろ)の帯に手を触れることもしませんし 関係もありませ…
荒《あれ》だちし 波に心は騒がねど よせけん 磯《いそ》を いかが恨みぬ (頭中将乱入騒ぎで ) 破いたまま忘れていた指貫と帯を持たせてくれた 源典侍に by 源氏の君 〜荒々しく暴れた波(頭中将)には驚かないが その彼を寄せつけたあなた(磯)を どうし…
恨みても 云《い》ひがひぞなき 立ち重ね 引きて帰りし 波のなごりに 密会中に頭中将が乱入 装束を破いたまま帰った二人の忘れ物を届けてくれた源典侍の歌 〜恨んでも何の甲斐もありません。 次々とやって来ては帰っていったお二人の波の後では 【第7帖 紅…
隠れなき ものと知る知る夏衣 きたるをうすき 心とぞ見る 〜あなたと この女性との仲まで世間に知られてしまうのを 承知の上でやってきて、 夏衣を着るとは 何と薄情で浅薄なお気持ちかと思いますよ。 (薄い夏の衣では、その下の衣の色を隠せないので 隠し…
包むめる 名や洩《も》り出《い》でん 引きかはし かくほころぶる 中の衣に 源典侍との密会中に頭中将に踏み込まれ 装束も破れた時の源氏の君に by 頭中将 〜隠そうとしている浮名も洩れ出てしまいましょう、 引っ張り合って ほころんでしまった衣のように、…
人妻は あなわづらはし 東屋の まやのあまりも 馴《な》れじとぞ思ふ 源典侍の誘いに対しての源氏の歌 〜人妻は厄介なことです。 東屋の真屋の軒先に立ち馴れぬように、 あなたには あまり馴れ馴れしく親しまないようにしよう。 【第7帖 紅葉賀】 清涼殿の音…
立ち濡《ぬ》るる 人しもあらじ 東屋に うたてもかかる 雨そそぎかな 催馬楽「東屋」を歌いながら近づく源氏を招く源典侍(げんのないしのすけ)の歌 〜濡れて雨宿りに来る人もいない粗末な東屋に、 嫌な雨が降りそそぎます。 【第7帖 紅葉賀】 清涼殿の音楽…
笹《ささ》分けば 人や咎《とが》めん いつとなく 駒馴《な》らすめる 森の木隠れ 源典侍(げんのないしのすけ)の誘惑をかわす源氏の君の歌 〜笹を分けて入って行ったら人が注意するでしょう。 いつでも馬を懐けている森の木陰では厄介ですからね。 あなた…
君し来《こ》ば 手馴《てな》れの駒《こま》に 刈り飼はん 盛り過ぎたる下葉なりとも 色気たっぷりに源典侍(げんのないしのすけ)が源氏を誘う 〜あなたがいらしたなら、 飼い馴れた ご愛馬のつもりで草を刈ってあげましょう。 盛りを過ぎてしまった下草で…
森の下草老いぬれば 駒《こま》もすさめず 刈る人もなし 源典侍が源氏に語った 古今集の読み人知らずの歌 下の和歌は、これ ✴︎大荒木の 森の下草老いぬれば 駒もすさめず 刈る人もなし 〜大荒木の森に生えている下草も成長しすぎてしまった。 馬も喜んで食べ…
袖《そで》濡《ぬ》るる 露のゆかりと思ふにも なほうとまれぬ やまと撫子 苦しい胸の内を訴える源氏への返歌 by 藤壺の宮 〜あなたの袖を濡らしている露のゆかり‥ あなたとの縁と思うにつけても やはり疎ましくなれない大和撫子(若宮)です 【第7帖 紅葉賀…
よそへつつ 見るに心も 慰まで 露つゆけさまさる 撫子なでしこの花 源氏は 藤壺の宮への、苦しい胸の内を書いた歌を王命婦に預ける 〜なでしこの花を見るにつけ、愛しい御子と結びついてしまいます。 気持ちは慰められることなく、 心は晴れるどころか、涙が…
見ても思ふ 見ぬはたいかに 歎《なげ》くらん こや世の人の 惑ふてふ闇《やみ》 嘆く源氏の君に by 藤壺の宮の苦悩を伝える王命婦 〜御子をご覧になる藤壺の宮様も物思いに沈んでいらっしゃいます。 若宮をご覧にならない源氏の君もまた どんなにかお嘆きの…
いかさまに 昔結べる契りにて いかさまに 昔結べる 契りにて この世にかかる 中の隔てぞ 秘密の恋を知る王命婦に by 新皇子 拝見を望む源氏の君 〜いったい前世で 私たちははいったいどのような約束を交わしたのだろうか。 この世では もう会えない仲なので…
から人の 袖ふることは 遠けれど 起《た》ち居《ゐ》につけて 哀れとは見き (源氏の見事な青海波の舞を見た後) 源氏が送った手紙の返事の歌 by 藤壺の宮 〜唐の人が袖を振って舞ったというその謂われには疎うございますが、 貴方の舞う姿には、感動いたし…
物思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の 袖うち振りし 心知りきや 青海波の舞の後藤壺の宮に by 源氏の君 〜物思いにかられて とても舞うことなどできそうにもない私が、 それでも貴女にご覧に入れるために 袖を振りながら舞いました。 私の心の内を分かってく…