第1帖 桐壺(きりつぼ)源氏物語
結びつる 心も深き 元結ひに 濃き紫の色し褪せず 〜深く心をこめた元結いです、 濃い紫色がいつも濃い紫色が褪せなければよいのですが。 結婚を約束した心を深く結びこめた、この元結いです。 源氏の君のお心変わりがなく娘と長く添い遂げてくれれば、 どん…
荒き風 ふせぎし蔭の 枯れしより 小萩がうへぞ 静心な (源氏の祖母 桐壺の母 按察使大納言 あぜちだいなごんの北の方) 荒い風を防いでいた木が枯れてからは 小萩の身の上が気がかりでなりません 厳しい世間の風当を防いでいた母君の桐壺の更衣が亡くなって…
いときなき 初元結ひに 長き世を 契る心は 結びこめつや いときなき はつもとゆひに ながき世を ちぎる心は むすびこめつや 幼い君の 初めての髻もどどりを結う時に、あなたの娘と永い契りをかわすようにと 願いをしっかり結び込めましたか? 源氏の君と左大…
雲の上も 涙にくるる 秋の月 いかですむらん 浅茅生《あさぢふ》の宿 雲の上(=宮中)でも、悲しみの涙に曇ってよく見えない秋の月は、 どうして澄んで見えることがあろうか、草深い更衣の実家では‥ (残された人達は悲しみにうちひしがれ、どのように暮ら…
太液《たいえき》の池の蓮花《れんげ》にも、 未央宮《びおうきゅう》の柳の趣にも その人は似ていたであろうが、 また唐《から》の服装は華美ではあったであろうが、 更衣の持った柔らかい美、 艶《えん》な姿態をそれに思い比べて御覧になると、 これは花…
尋ね行く まぼろしもがな つてにても 魂のありかを そこと知るべく (たづねゆく まぼろしもがな つてにても たまのありかを そことしるべく) 〜捜しに行く幻術師げんじゅつしがいてほしいものだ。 人づてにでも亡き桐壺更衣きりつぼのこういの魂たましいの…
いとどしく 虫の音ねしげき 浅茅生あさぢふに 露置き添ふる 雲の上人うへびと 〜虫の声がしきりにしているこの草深い荒れ果てた家に、 ますます悲しみの涙の露を置き添える宮中のお方よ。 桐壺更衣 きりつぼのこうい亡き後の里を、 帝の使者として見舞った靭…
鈴虫の 声の限りを 尽くしても 長き夜飽かず 降る涙かな 鈴虫のように声の限りをつくして泣いても、 秋の夜長にいつはてるとも知れず、しきりにこぼれる涙であることよ。 桐壺帝きりつぼていの使いで、亡き桐壺更衣きりつぼのこういの母をみまった 靭負命婦…
宮城野《みやぎの》の 露吹き結ぶ風の音《おと》に 小萩《こはぎ》が上を思ひこそやれ 〜宮城野を吹いて露を結ぶ風の音を聞くと、小萩(幼な子)のことが思い出されてならない。 桐壺帝の 母を亡くした子への気持ちが溢れて涙が出ます 「こういうお言葉です…
限りとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり 〜今を限りにお別れする悲しさにつけても、 私が行きたいのは死出の旅路ではなく、生き長らえていたいのです。 なんて悲しい歌なのでしょう 光源氏の母君の桐壺更衣(きりつぼのこうい)は、すっか…