荒き風 ふせぎし蔭の 枯れしより
小萩がうへぞ 静心な
(源氏の祖母 桐壺の母 按察使大納言 あぜちだいなごんの北の方)
荒い風を防いでいた木が枯れてからは
小萩の身の上が気がかりでなりません
厳しい世間の風当を防いでいた母君の桐壺の更衣が亡くなってから、
若宮のことが心配で、気がかりです。
【第1帖 桐壺 】
帝は命婦にこまごまと
大納言《だいなごん》家の様子をお聞きになった。
身にしむ思いを得て来たことを
命婦は外へ声をはばかりながら申し上げた。
未亡人の御返事を帝は御覧になる。
もったいなさをどう始末いたしてよろしゅうございますやら。
こうした仰せを承りましても
愚か者は ただ悲しい悲しいとばかり思われるのでございます。
『荒き風防ぎし 蔭《かげ》の枯れしより
小萩《こはぎ》が上ぞ しづ心無き』
というような、 歌の価値の疑わしいようなものも書かれてあるが、
悲しみのために落ち着かない心で詠んでいるのであるからと
寛大に御覧になった。
帝はある程度まではおさえていねばならぬ悲しみであると思召すが、
それが御困難であるらしい。
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