九重《ここのへ》に霧や隔つる雲の上の
月をはるかに思ひやるかな
院との思い出がお心に浮かび
〜宮中には霧が幾重にもかかっているのでしょうか。
雲の上で見えない月を
はるかにお思い申し上げますことよ。
【第10帖 賢木 さかき】
「ただ今まで御前におりまして、
こちらへ上がりますことが深更になりました」
と源氏は中宮に挨拶《あいさつ》をした。
明るい月夜になった御所の庭を
中宮はながめておいでになって、
院が御位《みくらい》においでになったころ、
こうした夜分などには音楽の遊びをおさせになって
自分をお喜ばせになったことなどと
昔の思い出がお心に浮かんで、
ここが同じ御所の中であるようにも思召しがたかった。
九重《ここのへ》に霧や隔つる雲の上の
月をはるかに思ひやるかな
これを命婦《みょうぶ》から源氏へお伝えさせになった。
宮のお召し物の動く音などもほのかではあるが聞こえてくると、
源氏は恨めしさも忘れてまず涙が落ちた。
「月影は見し世の秋に変はらねど
隔つる霧のつらくもあるかな」
霞《かすみ》が花を隔てる作用にも
人の心が現われるとか昔の歌にもあったようでございます」
などと源氏は言った。
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【源氏物語 第十帖 賢木 さかき】
正妻の葵の上が亡くなった。
六条御息所も晴れて源氏の正妻に迎えられるだろうと
世間は噂していた。
しかし 源氏は冷たくなり 縁が程遠くなった御息所。
彼女は 悩みながらも斎宮とともに伊勢に下ることにする。
いよいよ出発間近となった。
このまま別れるのはあまりにも忍びないと、
源氏も御息所のもとを訪ねる。
顔を合わせてしまうとやはり再び思いが乱れる御息所だったが、
伊勢へと下って行った。
桐壷院の病が重くなる。
死期を悟った院は朱雀帝に春宮と源氏のことを
遺言で託した後 ほどなく崩御してしまう。 時勢は、
朱雀帝の優しい性格もあって、
政治は右大臣に権力が集中していった。
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