2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧
ほのめかす 風につけても 下荻《したをぎ》の 半《なかば》は 霜にむすぼほれつ 軒端荻に by 源氏の君 〜それとなく分かるような風(手紙)をみるにつけても ほのめかしてくださることを嬉しいと思いつつも、 霜が降りた荻の下葉のように私の心は半分しおれ…
ほのかにも 軒ばの荻《をぎ》を むすばずば 露のかごとを 何にかけまし 軒端荻に by 源氏の君 〜軒端の荻を結ぶように、あなたと関係を持ったのでなかったら、 露のようなちょっとした恨み言ですら、 どうしていうことができたでしょうか。 【第4帖 夕顔】 …
うつせみの 世はうきものと 知りにしを また言の葉に かかる命よ 空蝉の君に by 源氏の君 〜あの空蝉のようにはかない貴女との関係は、 もう望みのないものとわかっていましたのに、 また貴女のお言葉に すがらずにはおれない この命です。 【第4帖 夕顔】 …
問はぬをも などかと問はで 程ふるに いかばかりかは 思ひ乱るる 源氏の君へ by 空蝉の君 〜お見舞いできませんことを なぜかとお尋ね下さらずに 月日が過ぎるのは、私もどれほど思い乱れていることでしょう。 夫 伊予介の任地へ伴われる日が近づいてきた空…
八月九月 正長夜《まさにながきよ》、 千声万声《せんせいばんせい》 無止時《やむときなし》 by白居易 〜『白氏文集』「聞夜砧」より 【第4帖 夕顔】 空は曇って冷ややかな風が通っていた。 寂しそうに見えた源氏は、 『見し人の 煙を雲と ながむれば 夕《…
見し人の 煙を雲と ながむれば 夕《ゆふべ》の空も むつまじきかな by 源氏の君 〜かつて愛し連れ添ったあの人の火葬の煙をあの雲とおもって眺めると この夕方の空も親しみ深く感じられることだ。 【第4帖 夕顔】 「弱々しい女が私はいちばん好きだ。 自分が…
里分かぬ かげを見れども 行く月の いるさの山を 誰《たれ》かたづぬる by 尾行してきた頭中将に by 源氏の君 〜どこの里も分け隔てない月の光をみることはあっても 空を渡ってゆく月が入ってゆく先の いるさ山を尋ねる人があるだろうか (君も かなりの物好…
源氏を尾行する頭中将 もろともに 大内山は出《い》でつれど 入る方見せぬ いざよひの月 by 頭中将 〜一緒に内裏を出たのに、 なかなか入るところを見せようとしない 十六夜の月のようなあなたでしたね 〜サッと行ってしまった冷たさに対し 逆にお送りすると…
かこつべき 故を知らねば おぼつかな いかなる草の ゆかりなるらん by 若紫の姫君 〜武蔵野の草と私をどのようにかこつけて嘆いている理由がわかりません。 気になります。 私はいったいどのような草のゆかりなのでしょうか 第5帖 若紫 「書きそこねたわ」 …
ねは見ねど 哀れとぞ思ふ 武蔵野《むさしの》の 露分けわぶる 草のゆかりを 二条院に連れてきたばかりの若紫に by 源氏の君 〜まだ根は見たことがありませんが、愛しく思われます、 武蔵野の露に難儀して訪ねられないでいる紫にゆかりの草を めっちゃくそ、…
手に摘みて いつしかも見ん 紫の根に 通ひける 野辺《のべ》の若草 晩春の北山の夕べに見た面影を思い出しながら 物思いした頃の源氏の君の歌 〜手に摘んで、なんとか早く見たいものだ。 紫草(=藤壺)のゆかりのある 野辺の若草(=紫の上)を 第5帖 若紫 …
いはけなき 鶴《たづ》の一声聞きしより 葦間《あしま》になづむ 船ぞえならぬ 若紫の祖母 北山の尼君に by 源氏の君 〜あどけない 幼い鶴のような(姫君)の 一声を聞いてからというもの、 私は 葦の間を進みあぐねている舟のように、 言うに言われぬ思いで…
世語りに 人やつたへん 類《たぐ》ひなく 憂《う》き身をさめぬ 夢になしても 源氏の君に by 藤壺の宮 〜世の語り草として、人が噂しますよ。 この上もなく辛い私の身を、夢の中のこととしても、 第5帖 若紫 源氏の恋の万分の一も告げる時間のあるわけはない…
見てもまた逢ふ夜 稀《まれ》なる夢の中《うち》に やがてまぎるるわが身ともがな 藤壺の宮に by 源氏の君 〜夢で貴女にお会いしても またいつの夜逢えるか おぼつかないのですから、 私は、夢の中にそのまま消えてしまいたい。 第5帖 若紫 源氏の恋の万分の…
汲《く》み初《そ》めて くやしと聞きし 山の井の 浅きながらや 影を見すべき 源氏の君に by 若紫の祖母 北山の尼君 〜山の井戸の水を汲もうとしてあまりの浅さにがっかりするように、 あなたの心は浅いままでしょうから 孫娘をさしあげることなどできません…
浅香山 浅くも人を 思はぬに など山の井の かけ離るらん 乳母の君 少納言に by 源氏の君 〜姫君への思いは決して浅くはないのに、 どうして山の井に影が宿らないように わたしからかけ離れていらっしゃるのでしょう 第5帖 若紫 今度は五位の男を使いにして手…
嵐《あらし》吹く 尾上《をのへ》のさくら 散らぬ間を 心とめけるほどのはかなさ 源氏の君へ by 若紫の祖母 北山の尼君 〜激しい山風が吹いて散ってしまう峰の桜に 散らない間だけ お気持ちを寄せられたような 頼りなさに思われます 第5帖 若紫 源氏は翌日 …
面《おも》かげは 身をも離れず山ざくら 心の限り とめてこしかど 若紫の祖母 北山の尼君に by 源氏の君 〜山桜(姫君)の面影が わたしの身から離れません 心のすべてをそちらに置いて来たのですが。 第5帖 若紫 源氏は翌日 北山へ手紙を送った。 僧都《そ…
寄る波の 心も知らで 和歌の浦に 玉藻《たまも》なびかん ほどぞ浮きたる 若紫の乳母の君 少納言に by 源氏の君 〜和歌の浦に寄せる波に なびく玉藻のように 相手の気持ちをよく確かめもせずに従うことは頼りないことです。 第5帖 若紫 「そんなことはどうで…
あしわかの 浦にみるめは 難《かた》くとも こは立ちながら 帰る波かは 若紫の乳母の君 少納言に by 源氏の君 〜幼い姫君に お目にかかることは難しいにしても、 和歌の浦に打ち寄せては 帰る波のように このまま帰るつもりはございません 第5帖 若紫 「そん…
まことにや 花のほとりは 立ち憂《う》きと 霞《かす》むる空の けしきをも見ん 源氏の君に by 北山の尼君 〜本当でしょうか。 花の咲くあたりを離れにくいというのは。 霞んだ空のけしきを見るように、 私はあなたがほのめかした言葉の真意を考えております…
夕まぐれ ほのかに花の 色を見て 今朝《けさ》は霞の 立ちぞわづらふ 北山の僧都に by 源氏の君 〜昨日の夕暮れ ほのかに花の色をみて、それに心惹かれるので 霞が立ち籠める今朝、ここを出発する決心がつかずにいます。 第5帖 若紫 京から源氏の迎えの一行…
奥山の 松の戸ぼそを 稀《まれ》に開けて まだ見ぬ花の 顔を見るかな 源氏の君に by 巌窟の聖人 〜山奥に住む我が庵の松の戸を珍しく開けると、かつて見たことのない 花のように美しい顔を見たことですよ 第5帖 若紫 京から源氏の迎えの一行が山へ着いて、 …
優曇華《うどんげ》の 花まち得たる ここちして 深山《みやま》桜 に目こそ移らね 〜源氏の君の来訪は、 優曇華 うどんげの花が咲いたかのような心地がして、 山桜には目もとまりません。 ✳︎優曇華→インドの想像上の植物。三千年に一度 花が咲くという。 第5…
宮人に 行きて語らん 山ざくら 風よりさきに 来ても見るべく 北山の僧都に by 源氏の君 〜内裏に帰って宮人に語ることにしましょう。 山桜が 風が吹いて花が落ちてしまう前に 自分達も来て見ることができるように 第5帖 若紫 京から源氏の迎えの一行が山へ着…
初草の 生ひ行く末も 知らぬまに いかでか露の 消えんとすらん 若紫の祖母の尼君へ by 一人の名もなき女房 〜萌え出したばかりの若草(のような姫君)が 成長していく将来もわからないうちに、 どうして露(尼君)は消えようとするのでしょうか。 第5帖 若紫…
生《お》ひ立たん ありかも知らぬ若草を おくらす露ぞ 消えんそらなき 幼い若紫をみながら 祖母の尼君が詠んだ歌 〜成長していく場所も知らない若草を、後に残して消えていく露は、 消えようにも消える空がない。 これからどのようになっていくか分からない…
立ちとまり 霧の籬《まがき》の過ぎうくば 草の戸ざしに 障《さは》りしもせじ 源氏の君へ by 久々に訪ねた女人へ 〜霧が覆って素通りできずに立ち止まっているならば、 草の戸なんて、 あなたの行く手をはばむ障害にはなりませんよ。 あなたのお気持ちもた…
朝ぼらけ 霧立つ空の 迷ひにも 行き過ぎがたき 妹《いも》が門かな 久々に訪ねた女人へ by 源氏の君 〜明け方の空に霧が立ち込めている中迷ってしまいそうですが、 そんな中にも通り過ぎがたいあなたの家の門であることよ おっひっさー オイラのこと 待って…
吹き迷ふ 深山《みやま》おろしに 夢さめて 涙催す 滝の音かな北山の僧都へ by 源氏の君 〜吹き乱れる深山おろしに 煩悩の夢から覚めて 感涙を引き起こす滝の音だなあ。 第4帖 若紫 「それは非常にうれしいお話でございますが、 何か話をまちがえて聞いてお…