2023-08-21から1日間の記事一覧
世語りに 人やつたへん 類《たぐ》ひなく 憂《う》き身をさめぬ 夢になしても 源氏の君に by 藤壺の宮 〜世の語り草として、人が噂しますよ。 この上もなく辛い私の身を、夢の中のこととしても、 第5帖 若紫 源氏の恋の万分の一も告げる時間のあるわけはない…
見てもまた逢ふ夜 稀《まれ》なる夢の中《うち》に やがてまぎるるわが身ともがな 藤壺の宮に by 源氏の君 〜夢で貴女にお会いしても またいつの夜逢えるか おぼつかないのですから、 私は、夢の中にそのまま消えてしまいたい。 第5帖 若紫 源氏の恋の万分の…
汲《く》み初《そ》めて くやしと聞きし 山の井の 浅きながらや 影を見すべき 源氏の君に by 若紫の祖母 北山の尼君 〜山の井戸の水を汲もうとしてあまりの浅さにがっかりするように、 あなたの心は浅いままでしょうから 孫娘をさしあげることなどできません…
浅香山 浅くも人を 思はぬに など山の井の かけ離るらん 乳母の君 少納言に by 源氏の君 〜姫君への思いは決して浅くはないのに、 どうして山の井に影が宿らないように わたしからかけ離れていらっしゃるのでしょう 第5帖 若紫 今度は五位の男を使いにして手…
嵐《あらし》吹く 尾上《をのへ》のさくら 散らぬ間を 心とめけるほどのはかなさ 源氏の君へ by 若紫の祖母 北山の尼君 〜激しい山風が吹いて散ってしまう峰の桜に 散らない間だけ お気持ちを寄せられたような 頼りなさに思われます 第5帖 若紫 源氏は翌日 …
面《おも》かげは 身をも離れず山ざくら 心の限り とめてこしかど 若紫の祖母 北山の尼君に by 源氏の君 〜山桜(姫君)の面影が わたしの身から離れません 心のすべてをそちらに置いて来たのですが。 第5帖 若紫 源氏は翌日 北山へ手紙を送った。 僧都《そ…
寄る波の 心も知らで 和歌の浦に 玉藻《たまも》なびかん ほどぞ浮きたる 若紫の乳母の君 少納言に by 源氏の君 〜和歌の浦に寄せる波に なびく玉藻のように 相手の気持ちをよく確かめもせずに従うことは頼りないことです。 第5帖 若紫 「そんなことはどうで…
あしわかの 浦にみるめは 難《かた》くとも こは立ちながら 帰る波かは 若紫の乳母の君 少納言に by 源氏の君 〜幼い姫君に お目にかかることは難しいにしても、 和歌の浦に打ち寄せては 帰る波のように このまま帰るつもりはございません 第5帖 若紫 「そん…
まことにや 花のほとりは 立ち憂《う》きと 霞《かす》むる空の けしきをも見ん 源氏の君に by 北山の尼君 〜本当でしょうか。 花の咲くあたりを離れにくいというのは。 霞んだ空のけしきを見るように、 私はあなたがほのめかした言葉の真意を考えております…
夕まぐれ ほのかに花の 色を見て 今朝《けさ》は霞の 立ちぞわづらふ 北山の僧都に by 源氏の君 〜昨日の夕暮れ ほのかに花の色をみて、それに心惹かれるので 霞が立ち籠める今朝、ここを出発する決心がつかずにいます。 第5帖 若紫 京から源氏の迎えの一行…
奥山の 松の戸ぼそを 稀《まれ》に開けて まだ見ぬ花の 顔を見るかな 源氏の君に by 巌窟の聖人 〜山奥に住む我が庵の松の戸を珍しく開けると、かつて見たことのない 花のように美しい顔を見たことですよ 第5帖 若紫 京から源氏の迎えの一行が山へ着いて、 …