別るとてはるかに言ひしひと言《こと》も
かへりて物は今ぞ悲しき
前斎宮は、別れの御櫛をいただいた時、
美しい帝が別れを惜しんでお泣きになるのをおいたわしく思った。
(朱雀院に by 前斎宮)
〜別れの御櫛をいただいた時に 仰せられた
「京(みやこ)の方(かた)に赴きたまふな」の一言が
京にに帰った今となっては悲しく思われます
【第17帖 絵合 えあわせ】
「この御返歌はどうなさるだろう、
またお手紙もあったでしょうが
お答えにならないではいけないでしょう」
などと源氏は言ってもいたが、
女房たちはお手紙だけは源氏に見せることをしなかった。
宮は気分がおすぐれにならないで、
御返歌をしようとされないのを、
「それではあまりに失礼で、
もったいないことでございます」
こんなことを言って、
女房たちが返事をお書かせしようと苦心している様子を知ると、
源氏は、
「むろんお返事をなさらないではいけません。
ちょっとだけでよいのですからお書きなさい」
と言った。
源氏にそう言われることが
斎宮にはまたお恥ずかしくてならないのであった。
昔を思い出して御覧になると、
艶に美しい帝《みかど》が別れを惜しんでお泣きになるのを、
少女心《おとめごころ》に
おいたわしくお思いになったことも目の前に浮かんできた。
同時に、母君のことも思われてお悲しいのであった。
別るとてはるかに言ひしひと言《こと》も
かへりて物は今ぞ悲しき
とだけお書きになったようである。
🪷雪風 written by のる🪷
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