泣く泣くも 今日《けふ》はわが結《ゆ》ふ 下紐《したひも》を
いづれの世にか 解けて見るべき
🪷亡き夕顔の衣装の袴の腰に源氏が書いた歌😢
〜泣く泣く 今日は私が一人で結ぶ袴の下紐、
いつの世にか貴女と再び会い
その結んだ下紐を解いて(心も打ち解けて)逢うことができるだろうか。
【第4帖 夕顔】
源氏は夕顔の四十九日の法要を
そっと叡山《えいざん》の法華堂《ほっけどう》で
行なわせることにした。
それはかなり大層なもので、
上流の家の法会《ほうえ》としてあるべきものは
皆用意させたのである。
寺へ納める故人の服も新調したし寄進のものも大きかった。
書写の経巻にも、新しい仏像の装飾にも費用は惜しまれてなかった。
人格者だといわれている僧で、その人が皆引き受けてしたのである。
源氏の詩文の師をしている
親しい某|文章博士《もんじょうはかせ》を呼んで
源氏は故人を仏に頼む願文《がんもん》を書かせた。
普通の例と違って故人の名は現わさずに、
死んだ愛人を阿弥陀仏《あみだぶつ》にお託しするという意味を、
愛のこもった文章で下書きをして源氏は見せた。
「このままで結構でございます。
これに筆を入れるところはございません」
博士はこう言った。
激情はおさえているがやはり源氏の目からは涙がこぼれ落ちて
堪えがたいように見えた。
その博士は、
「何という人なのだろう、そんな方のお亡くなりになったことなど
話も聞かないほどの人だのに、
源氏の君があんなに悲しまれるほど愛されていた人というのは
よほど運のいい人だ」
とのちに言った。
作らせた故人の衣裳《いしょう》を源氏は取り寄せて、
袴《はかま》の腰に、
『泣く泣くも 今日《けふ》はわが結《ゆ》ふ 下紐《したひも》を
いづれの世にか 解けて見るべき』
と書いた。
四十九日の間はなおこの世界にさまよっているという霊魂は、
支配者によって未来のどの道へ赴《おもむ》かせられるのであろうと、
こんなことをいろいろと想像しながら
般若心経《はんにゃしんぎょう》の章句を唱えることばかりを
源氏はしていた。
🪷ぜひ、全文もご覧ください🪷
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