から人の 袖ふることは 遠けれど
起《た》ち居《ゐ》につけて 哀れとは見き
(源氏の見事な青海波の舞を見た後)
源氏が送った手紙の返事の歌 by 藤壺の宮🪷
〜唐の人が袖を振って舞ったというその謂われには疎うございますが、
貴方の舞う姿には、感動いたしました。
【第6帖 紅葉賀】
翌朝源氏は藤壺の宮へ手紙を送った。
「どう御覧くださいましたか。苦しい思いに心を乱しながらでした。
物思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の
袖うち振りし 心知りきや
失礼をお許しください。」
とあった。
目にくらむほど美しかった昨日の舞を
無視することがおできにならなかったのか、
宮はお書きになった。
から人の 袖ふることは 遠けれど
起《た》ち居《ゐ》につけて 哀れとは見き
一観衆として。」
たまさかに得た短い返事も、
受けた源氏にとっては非常な幸福であった。
支那《しな》における青海波の曲の起源なども
知って作られた歌であることから、
もう十分に后らしい見識を備えていられると源氏は微笑して、
手紙を仏の経巻のように拡《ひろ》げて見入っていた。
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