かざしける 心ぞ仇《あだ》に思ほゆる
八十氏《やそうぢ》人に なべてあふひを
〜たくさんの人々に誰彼となく靡くものですから
その葵をかざしているあなたの心心こそ
当てにならないものと思いますよ。
【第9帖 葵 あおい】
今日も町には隙間《すきま》なく車が出ていた。
馬場殿あたりで祭りの行列を見ようとするのであったが、
都合のよい場所がない。
「大官連がこの辺にはたくさん来ていて面倒な所だ」
源氏は言って、
車をやるのでなく、停《と》めるのでもなく、
躊躇《ちゅうちょ》している時に、
よい女車で人がいっぱいに乗りこぼれたのから、
扇を出して源氏の供を呼ぶ者があった。
「ここへおいでになりませんか。
こちらの場所をお譲りしてもよろしいのですよ」
という挨拶である。
どこの風流女のすることであろうと思いながら、
そこは実際よい場所でもあったから、
その車に並べて源氏は車を据《す》えさせた。
「どうしてこんなよい場所をお取りになったかと
うらやましく思いました」
と言うと、
品のよい扇の端を折って、それに書いてよこした。
はかなしや 人のかざせる あふひ故《ゆゑ》
神のしるしの 今日を待ちける
注連《しめ》を張っておいでになるのですもの。
源典侍《げんてんじ》の字であることを
源氏は思い出したのである。
どこまで若返りたいのであろうと醜く思った源氏は皮肉に、
かざしける 心ぞ仇《あだ》に思ほゆる
八十氏《やそうぢ》人に なべてあふひを
と書いてやると、
恥ずかしく思った女からまた歌が来た。
くやしくも 挿《かざ》しけるかな 名のみして
人だのめなる 草葉ばかりを
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