かの岸に 心寄りにし 海人舟の
背きし方に 漕ぎ帰るかな by 明石の尼君
〜彼岸の浄土に思いを寄せていた尼のわたしが、
捨てた都の世界に帰って行くのだわ
信頼する夫、
たくさんの思い出のある明石を離れるつらさに泣く明石の尼君
【源氏物語589 第18帖 松風13】
午前八時に船が出た。
昔の人も身にしむものに見た明石の浦の朝霧に
船の隔たって行くのを見る入道の心は、
仏弟子《ぶつでし》の超越した境地に
引きもどされそうもなかった。
ただ呆然《ぼうぜん》としていた。
長い年月を経て都へ帰ろうとする尼君の心もまた悲しかった。
かの岸に 心寄りにし 海人船《あまぶね》の
そむきし方に 漕《こ》ぎ帰るかな
と言って尼君は泣いていた。
🪷菊 written by 西本康佑🪷
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