いきてまた 逢ひ見んことを いつとてか
限りも知らぬ 世をば頼まん
by 明石の上
〜京へ行って生きて再びお会いできることを
いつと思って
限りも分からない寿命を頼りにできましょうか
父の明石入道に せめて見送ってほしいと懇願する
【第18帖 松風 まつかぜ】
「行くさきを はるかに祈る 別れ路《ぢ》に
たへぬは老いの 涙なりけり
不謹慎だ私は」
と言って、
落ちてくる涙を拭《ぬぐ》い隠そうとした。
尼君が、京時代の左近中将の良人《おっと》に、
「もろともに 都は出《い》でき このたびや
一人野中の 道に惑はん」
と言って泣くのも同情されることであった。
信頼をし合って過ぎた年月を思うと、
どうなるかわからぬ娘の愛人の心を頼みにして、
見捨てた京へ帰ることが尼君をはかなくさせるのであった。
明石が、
「いきてまた 逢ひ見んことを いつとてか
限りも知らぬ 世をば頼まん
送ってだけでもくださいませんか」
と父に頼んだが、
それは事情が許さないことであると
入道は言いながらも途中が気づかわれるふうが見えた。
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