伊勢の海の 深き心を たどらずて
ふりにし跡と 波や消つべき
左方〈源氏側〉平典侍(へいてんじ)が、
伊勢物語について語る🌊
〜伊勢物語の(海のように)
深い心を訪ねないで
単に古い物語だからといって
価値まで落としめてよいものでしょうか
次は伊勢《いせ》物語と正三位《しょうさんみ》が合わされた。
この論争も一通りでは済まない。
今度も右は見た目がおもしろくて刺戟的で宮中の模様も描かれてあるし、
現代に縁の多い場所や人が写されてある点でよさそうには見えた。
平典侍が言った。
「伊勢の海の 深き心をたどらずて
ふりにし跡と波や消つべき
ただの恋愛談を技巧だけで綴《つづ》ってあるような小説に
業平朝臣《なりひらあそん》を負けさせてなるものですか」
右の典侍が言う。
雲の上に 思ひのぼれる心には
女院が左の肩をお持ちになるお言葉を下された。
「兵衛王《ひょうえおう》の精神はりっぱだけれど
在五中将以上のものではない。
見るめこ そうらぶれぬらめ 年経にし
伊勢をの海人《あま》の名をや沈めん」
🌊遥か written by 藍舟🌊
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