長き世の 恨みを人に 残しても
かつは 心をあだとしらなん
源氏の狂おしい恋心を、
わざと軽く受けたようにしておいでになる藤壺の宮🪷
〜未来永劫の怨みをわたしに残したと言っても
そのようなお心はまた一方で
すぐに変わるものと知ってください。
【第10帖 賢木 さかき】
「逢ふことの 難《かた》きを今日に 限らずば
なほ幾世をか歎《なげ》きつつ経ん
どうなってもこうなっても
私はあなたにつきまとっているのですよ」
宮は吐息《といき》をおつきになって、
長き世の 恨みを人に 残しても
かつは 心をあだとしらなん
とお言いになった。
源氏の言葉を
わざと軽く受けたようにしておいでになる御様子の優美さに
源氏は心を惹《ひ》かれながらも
宮の御|軽蔑を受けるのも苦しく、
わがためにも自重しなければならないことを思って帰った。
あれほど冷酷に扱われた自分は もうその方に顔もお見せしたくない。
同情をお感じになるまでは沈黙をしているばかりであると源氏は思って、
それ以来宮へお手紙を書かないでいた。
ずっともう御所へも東宮へも出ずに引きこもっていて、
夜も昼も冷たいお心だとばかり恨みながらも、
自分の今の態度を裏切るように恋しさがつのった。
魂もどこかへ行っているようで、
病気にさえかかったらしく感ぜられた。
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