よそへつつ 見るに心も 慰まで
露つゆけさまさる 撫子なでしこの花
源氏は 藤壺の宮への、苦しい胸の内を書いた歌を王命婦に預ける🪷
〜なでしこの花を見るにつけ、愛しい御子と結びついてしまいます。
気持ちは慰められることなく、
心は晴れるどころか、涙があふれてしまいます。
「撫子」は子どものたとえで若宮を指します。
【第7帖 紅葉賀】
源氏は二条の院の東の対《たい》に帰って、
苦しい胸を休めてから後刻になって左大臣家へ行こうと思っていた。
前の庭の植え込みの中に何木となく、
何草となく青くなっている中に、
目だつ色を作って咲いた撫子《なでしこ》を折って、
それに添える手紙を長く王命婦《おうみょうぶ》へ書いた。
「よそへつつ 見るに心も慰まで
露つゆけさまさる 撫子なでしこの花
花を子のように思って愛することは
ついに 不可能であることを知りました。」
とも書かれてあった。
だれも来ぬ隙《すき》があったか命婦はそれを宮のお目にかけて、
「ほんの塵《ちり》ほどのこのお返事を書いてくださいませんか。
この花片《はなびら》にお書きになるほど、少しばかり」
と申し上げた。
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